1月20日
スキーシーズンになると思い出す事件がある。
A男は、非常に多忙な証券マンであったが、残業、休日出勤、と全く家族と共に過ごす時間がないことに不安・不満を持ち、妻とも話し合って思い切って退職し、退職金を元に、東北のスキー場のペンションを手に入れたのだった。
夏は、近くの町営テニスコートに来る客、秋は、紅葉狩りに来る客など、スキー客以外でも一年中賑わって、ペンションはなかなか繁盛した。
妻も、高校生の娘も生き生きと手伝ってくれ、何よりもいつも家族一緒に居られるのが楽しかった。A男は、フランス料理も覚え、ペンション内は、妻の手芸品や娘の描いたセンスの良い絵で飾り、評判が評判を呼んでいつも大入り満員、妻の母も呼び寄せて、家族の笑顔が絶えなかった。
これは20年前近くの話…。
10年位前から景気の悪化で客足は減り、収入も少なくなり、妻の母は帰り、娘は都会に就職した。A男は、ペンション経営のために借金をするようになり、夫婦の間はケンカばかりで、とうとう妻も離婚届出用紙にハンコを押し、出て行ってしまった。
私がA男から依頼を受けたのは、妻から申立てられた離婚調停事件であった。 A男の懐かしい良き時代を思い出している陳述書を読みながら、家族といつも一緒に居たいと思ってペンションを始めたのに、結局、家族バラバラになってしまったA男の無念さを思ったが、妻に戻る意思はなく、結局協議離婚してしまったのだった。